琉球大学のジェイムズ・デイビス・ライマー准教授は、かごしま水族館の藤井琢磨技術職員(元鹿児島大学国際島嶼教育研究センター特任助教)らとの共同研究によって新種のスナギンチャク類注1 Umimayanathus (Gorgoniazoanthus) kanabou(和名:カナボウヤギスナギンチャク)を発表しました。この発表論文は、日本動物学会誌Zoological Science誌上にて8月8日にweb先行公開されました。
<発表概要>
- 新種のカナボウヤギスナギンチャクは、 “メソフォティック(中有光層)”とよばれる、やや深く、なおかつ恒常的に濁りの強い内湾砂泥環境に生息し、ムチヤギ注2群体上に特異的に表生する。現在のところ、奄美大島と加計呂麻島の間に位置する大島海峡、および沖縄島東岸の大浦湾の水深30~40 m付近のみで見つかっている。
- 本種は海綿にのみ共生するミニセンナリスナギンチャクUmimayanthus属に遺伝的に非常に近縁ながら、海綿ではなく刺胞動物のムチヤギ類と密接な関係注3にある特異な種であることが分かった。その結果を受けて、本種を含むミニセンナリスナギンチャクUmimayanthus属5種は、付着基質や遺伝的特徴の違いから、新たに3亜属に細分された。
- 3亜属は遺伝子におけるITS-rDNAという領域の特徴で明確に区別された。本種1種で構成される新亜属ヤギスナギンチャク亜属は、海綿と共生する他2亜属に対して、ヤギ類共生であることでも容易に見分けられる。
- 本種の群体表面では、カクレカニダマシやエボシカクレエビのなかまなど複数種のエビやカニ、さらに本種に特異的と思われるイトカケガイやナワメグルマのなかまなど寄生性巻貝も見つかった。
- 砂泥底は不安定で底性生物の生息に適した付着基質は限られることから、本種は内湾砂泥環境での生物多様性の創出に一役かっていると考えられる。
- 本発見は、特にサンゴ礁環境に注目が集まりがちな琉球列島以南の温暖な海域において、内湾砂泥底における生物多様性の理解がいまだに不足していることを顕著に示している。これらの環境は埋め立てや水質汚濁等による人為かく乱の影響に晒されやすい。今後、さらなる調査を推進し、琉球列島の内湾環境における生物多様性評価を適正に行う必要がある。
<用語解説>
注1)スナギンチャク:刺胞動物花虫綱六放サンゴ亜綱スナギンチャク目に属する生物の総称。イシサンゴやイソギンチャクに近縁で、それらの中間のような外見的特徴をもつ。骨を作らない代わりに、体に砂粒を埋め込む種が多いことから、砂の巾着→スナギンチャクという名前の由来をもつグループ。
注2)ムチヤギ:ムチのようにしなやかな軸をもつ、ソフトコーラルや宝石サンゴにちかい群体性の動物。
注3)ムチヤギとの“共生関係”:どのような関係性にあるか明らかにするには、さらなる調査が必要。
<論文情報>
- A New Species of Sea Whip Gorgonian-Associated Zoantharian (Cnidaria: Anthozoa: Hexacorallia: Parazoanthidae) from the Ryukyu Islands, Japan, with Subgeneric Subdivision of Genus Umimayanthus
和訳:琉球列島産のミニセンナリスナギンチャク属1新種および2新亜属(刺胞動物門:花虫綱:六放サンゴ亜綱:ゼンナリスナギンチャク科)。 - 雑誌名 Zoological Science
- 著者 Takuma Fujii, Maria Eduarda Alves dos Santos, James Davis Reimer
- アブストラクトURL:https://doi.org/10.2108/zs200172