琉球大学理学部の喜瀬浩輝博士研究員とジェイムズ・デイビス・ライマー准教授は、琉球列島を含む太平洋および大西洋から新属新種のスナギンチャク類Churabana kuroshioae(和名:ベニチュラタマスナギンチャク)、Vitrumanthus schrieri (和名:アミメルリスナギンチャク)、Vitrumanthus vanderlandi(和名:ヒメルリスナギンチャク)を発表しました。また、1908年に駿河湾で採集され記載されて以降、100年以上記録されてこなかったGemmaria oligomyariaを本研究によって確認することができ、学名をVitrumanthus oligomyariusとして発表しました。
またDNAによる分子系統解析の結果、六放海綿類に共生するスナギンチャク類が、少なくても6つの系統に分かれることが明らかになりました。これは、六放海綿類への共生を複数回に渡って獲得したことを示しています。さらに、進化過程で共生する相手を六放海綿類から普通海綿類に乗り換えていた系統の存在も明らかになりました。このような宿主の乗り換えは、生物の多様化に影響を与えることが考えられていますが、海洋生物での知見は限られています。そのため、今回の発見は海洋生物の多様化メカニズムを考える上で、重要な発見と言えます。
この発表論文は、ロンドン・リンネ協会のZoological Journal of the Linnean Society誌上にて9月29日にweb先行公開されました。研究概要については、別紙のとおりとなっております。
<発表概要>
琉球大学理学部の喜瀬浩輝博士研究員、ジェイムズ・デイビス・ライマー准教授は、沖縄美ら海水族館、ナチュラリス生物多様性センター(オランダ)、クイーンズランド博物館(オランダ)、ビーゴ大学(スペイン)らと国際的研究チームを結成し、太平洋および大西洋に生息する六放海綿類(ガラスカイメン類)に共生するスナギンチャク相を調査しました。その結果、琉球列島、カリブ海、アフリカ西海岸から、センナリスナギンチャク類を発見し、2新属3新種として国際科学誌「Zoological Journal of the Linnean Society」に公表しました。
研究の背景
スナギンチャク類は、クラゲ類やイシサンゴ類が含まれる「刺胞動物門」の一つのグループで、世界中から少なくても300種程度が知られています。基本的な体の構造はイシサンゴ類に似ていますが、骨を作らない代わりに、体に砂粒を埋め込む特徴で区別することができ、サンゴ礁、砂泥地、深海底など、様々な海洋環境に広く生息しています。
スナギンチャク類の多くは他の海洋生物と共生しており、宿主となる生物は海綿動物や刺胞動物、環形動物など多岐に渡ります。その中でも、海綿動物に共生するスナギンチャク類は浅海域において多様性が高いことで知られていますが、深海底での多様性は依然として明らかになっていません。そこで、喜瀬浩輝博士研究員とJavier Montenegro博士は、海綿動物に共生するスナギンチャク類の多様性を解明するために、ナチュラリス生物多様性センターおよびクイーンズランド博物館に所蔵されていた深海性の標本および日本周辺海域にて採集された深海性の20標本について、実体顕微鏡と光学顕微鏡を用いて形態観察を行い、ミトコンドリアDNAの3領域および核DNAの3領域を用いて分子系統解析を行いました。
研究成果
本研究の結果、私たち研究チームは、観察した六放海綿類に共生する標本が、ヤドリスナギンチャク科とセンナリスナギンチャク科に属し、そのうちセンナリスナギンチャク科に含まれた標本はこれまでに記載されているいずれの属とも遺伝的および形態的にも異なる未記載(名前のついていない)の新属新種であることを明らかにしました。今回記載した2新属3新種について、それぞれChurabana kuroshioae(和名:ベニチュラタマスナギンチャク(図1))、Vitrumanthus schrieri (和名:アミメルリスナギンチャク(図2))、Vitrumanthus vanderlandi(和名:ヒメルリスナギンチャク)と命名しました。
ベニチュラタマスナギンチャクは、沖縄県伊江島沖で沖縄美ら海水族館が採集した標本に基づき記載され、種小名のkuroshioaeは、本種を採集した「第二黒潮丸」に対する献名です。なお、属名のChurabanaは、沖縄の言葉で「美しい花」という意味を指しています。
アミメルリスナギンチャクとヒメルリスナギンチャクは、ナチュラリス生物多様性センターに所蔵されていた博物館標本に基づき記載されました。これら標本は1986年から2014年にかけてナチュラリス生物多様性センターの学芸員らが採集した標本で、種小名schrieriとvanderlandiは、それぞれの採集者であるAdriaan 'Dutch' Schrier氏とJacob van der Land博士に対する献名です。属名のVitrumanthusは、ラテン語とギリシャ語の組み合わせで「ガラスの花」という意味を指しています。
また、1908年に駿河湾産の標本をもとに新種として記載されたGemmaria oligomyariaは、記載されて以降、一度も発見された例はありませんでした。そのため、実際にGemmaria oligomyariaが存在するのか分かっていない現状でしたが、本研究によって約110年ぶりに千葉県勝浦沖で採集されたことで、その存在を確認することができました(図3)。新たに得られた標本を形態観察と分子系統解析により精査した結果、属名をVitrumanthusに変える必要性があることを明らかにしました。
今回の発見の意義
分子系統解析の結果、六放海綿類に共生するスナギンチャク類が少なくても6つの系統に分かれることが明らかになりました(図4)。これは、六放海綿類への共生が、スナギンチャク類の進化史の中で、独立に複数回獲得されたことを示しています。また、スナギンチャク類は、進化の過程で共生する相手を六放海綿類から普通海綿類に乗り換えていた系統が存在することも本研究によって明らかになりました。このような宿主の乗り換えは、生物の多様化に影響を与えることが考えられていますが、海洋生物での知見は限られています。特に、深海域に生息する生物の宿主転換については、採集の難しさから謎に包まれていました。そのため、今回の発見は海洋生物の多様化メカニズムを総合的に考える上で、重要な発見と言えます。
<論文情報>
Evolution and phylogeny of glass-sponge-associated zoantharians, with a description of two new genera and three new species
和訳:ガラスカイメン類に共生するスナギンチャク類の進化、系統および2新属3新種の記載について
雑誌名 Zoological Journal of the Linnean Society
著者 Hiroki Kise(喜瀬浩輝)1, 2、Javier Montenegro(ハビエル モンテネグロ)3、 Maria E. A. Santos(マリアE. A. サントス)1,4、Bert W. Hoeksema(バート W. ホクセマ)5, 6、 Merrick Ekins(メリック エキンス)7-9、 Yuji Ise(伊勢優史)10、 Takuo Higashiji(東地拓生)11、 Iria Fernandez-Silva(イリア フェルナンデス シルバ)12、 James D. Reimer(ジェイムズ D. ライマー)1, 3
1. 琉球大学理工学研究科
2. 産業技術総合研究所地質情報研究部門
3. 琉球大学熱帯生物圏研究センター
4. 沖縄科学技術大学院大学
5. ナチュラリス生物多様性センター
6. フローニンゲン大学
7. クイーンズランド博物館
8. グリフィス大学
9. クイーンズランド大学
10. 琉球大学瀬底研究施設
11. 沖縄美ら海水族館
12. ビーゴ大学
アブストラクトURL:https://academic.oup.com/zoolinnean/advance-article-abstract/doi/10.1093/zoolinnean/zlab068/6377815